蔵
日本酒にヴィンテージという価値を
by 田澤麻里香

ワインにおけるヴィンテージ
ヴィンテージとは、ワインにおけるブドウの収穫年を表すもので、ブドウの出来や収量が優れた年のワインには高い価値が与えられ、ワインの格や価格を決定付ける大きな要素です。ワインの当たり年は「グレートヴィンテージ(Great Vintage)」と呼ばれ、多くのワインラバーにとってワインを購入する際の重要な判断基準にもなっています。ボトルに収穫年が記されていることで、その年の気候条件がどのようであったか?などブドウが収穫されるまでに過ごした環境を想像できる、あるいは、飲み手自身のうちなる記憶を辿って過ぎ去りし日々やお酒が経過してきた時間に思いを馳せる、そんな文化的な嗜み方ができるのはワイン文化の大きな魅力の一つともいえるでしょう。
日本酒における
これまでのヴィンテージ
一方、日本酒においては原料となるお米の良し悪しが、ワインにおけるブドウほど鮮明にお酒の出来映えを左右することはないといわれています。原料が穀物か果物かによるところが大きいことは確かですが、お米の出来に多少の差があったとしても緻密で重層的な日本酒醸造の工程で適切に補う技があること、一般的なお酒は「新酒」として販売されてから一年以内に販売・消費されるという商慣習を前提に造られることなどから、日本酒にはお米の栽培年ごとに味わいや価値が増減する“ヴィンテージ”という概念は存在してこなかったといえます。日本酒の瓶には、製造年月日(瓶詰めされた日)が記載されているものの、お米の収穫年や仕込みを行った年が記載されないことが一般的なのはこのためです。
新酒にはない豊かな味わい
熟成酒・古酒は奥深く、時の変化をお酒に感じながら味わうことはとても愉しいです。お酒単体で嗜む時の美味しさや愉しさはさることながら、料理との至高のペアリングに出会った幸福感については筆舌尽しがたく、世界の食卓における日本酒のさらなる躍進を感じられずにはいられません。外観、香りの違いはもちろん、合わせるお料理や美味しく飲める温度帯にも変化がおきます。新酒の時は、冷酒が美味しいと感じたお酒が、熟成酒・古酒になった時には、逆にぬる燗酒〜熱燗の方がしっくりくるというような、新しい発見もあるのです。
日本酒にヴィンテージを
“日本酒のヴィンテージ”という試みは、長年取り組んでいらっしゃる蔵元は全国にあるものの、古酒・熟成酒は玄人好みのジャンルとみなされていると感じることも少なくないように思います。日本酒業界では、忘れられた古酒文化の復興を目指して活動する長期熟成酒研究会が存在したり、古酒の価値向上や市場開拓を目的として昨年末には200万円を超える高額のプレミアム古酒セットが限定販売されるなど、世界市場を見据えた動きも加速しています。
今はまだ一部のコアな日本酒ファンの密かな愉しみに止まっているように思える、この古酒・熟成酒の価値の再評価や魅力の普及はまさにここから。コロナ禍において苦境に立たされた日本酒業界を応援したいと強く願う日本酒ファンにとっては必然とも思いたい、注目すべき前進であると言えるでしょう。実際に、酒蔵に眠っているお宝のような古酒・熟成酒を買い求める国内外のバイヤーの動きもあるようです。
唯一無二の佐久の自然環境、水質、お米の個性、微生物、脈々と受け継がれた酒造りの技術というお酒づくりに欠かすことのできない要素と、それらを結実させる蔵元の哲学の中に、“時間”が加わることで新たな価値が生まれる古酒・熟成酒。未来の日本酒文化を「世界酒」として牽引する新たな系譜となることは間違いないでしょう。
SAKU SAKE VINTAGE 2017
芙蓉酒造協同組合 金宝芙蓉 純米吟醸 Tsukuyomi Vintage 2017と黒澤酒造 黒澤純米吟醸 Vintage 2017の佐久地域で2017年に醸され、3年の熟成を経た日本酒と新酒の飲み比べができるセットはこちらから
「飲み手自身のうちなる記憶を辿って過ぎ去りし日々やお酒が経過してきた時間に思いを馳せる」そんな愉しみを、佐久の日本酒で発見してみませんか?
「日本酒は年を越すとお酢になっちゃうんでしょ?」、いえいえ、そんなことありません。3年という時を“あえて(蔵元がねらって)”じっくりと過ごしたお酒は、もはや日本酒というジャンルを超えるほどの新たな魅力が備わることをお伝えできる蔵元の自信作です。